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本作について
背筋氏によるホラー小説『近畿地方のある場所について』は、カクヨムで公開され累計2,300万PVを超える反響を呼び、2023年にKADOKAWAから単行本化されました。モキュメンタリー形式のフェイクドキュメンタリー手法を駆使し、読者自身を調査者に仕立てる没入感が最大の魅力です。地名や舞台をすべて伏せることで、読者の妄想を刺激し、「近畿のどこかに本当にあるかも…」という恐怖を誘います。
物語は、多くの断片的資料や怪異レポートが断片化されて提示され、論理では語れない恐怖が積み重なっていく構成です。読者は「解決されない謎」に囚われ、むしろそれこそが作品の魅力であると感じさせられます。
あらすじと主要登場人物
- 小沢雄也(編集者)
出版社に勤める編集者・小澤雄也は、かつての同僚であるライター・瀬野千尋が失踪したことを受け、彼女の行方を追う主人公です。独自の推理と調査を続ける中で、「近畿地方のある場所」に関わる怪異の数々と結びついていることに気づきます。 - 背筋(ライター)
語り手は小沢さんからの依頼で調査に加わります。「真実を知りたい」という強い探究心をもちながらも、自ら危険へと踏み込んでしまう不安定さが、読者の共感とハラハラを誘います。
二人はオカルト雑誌のバックナンバーや読者投稿、心霊動画、事件記録、都市伝説などを紡ぎながら、「ある場所」に迫ります。そして、その地が呪われた空間であることを次第に知り、調査者としてだけでなく、呪われた者として巻き込まれていきます。
時系列年表で見る怪異と事件の流れ
物語は断片的で時系列が曖昧ですが、特定情報をもとに整理すると以下のような流れが見えてきます:
年代・タイミング | 出来事 |
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過去(不明) | 「ましらさま」などの都市伝説や幼女失踪事件、心霊動画などが始まる基盤となる怪異の発生。 |
冒頭(調査開始) | 小澤が瀬野の失踪を受け、資料を収集し調査を開始。 |
調査中 | 語り手が共同で進行し、怪談や呪文、事件発生の記録を順不同に評価。 |
終盤・未解決状態 | 調査の果てに、すべてが「近畿地方のある場所」に繋がり、そこが決して立ち入るべきでない場所であることに気づく。謎が解けぬまま、物語は終わる。 |
場所の特異性
特異性の核心は、地名や場所が徹底的に隠されている点にあります。これにより実在の場所であるかのように錯覚し、読者それぞれの生活圏と無意識に重ね合わせてしまうのです。例えば、読者によっては近畿の身近な山や心霊スポットと結びつけて想像をかき立てられます。
また、単行本版では資料形態が年代や媒体ごとにバラバラに示され、不条理な連携が成立することで、「説明不可能な闇」の重層性を演出しています。
作品のポイント
没入感モキュメンタリー形式により、「自分が調査者になったような体験」ができる。リアルと虚構の境界が曖昧なのが魅力。
読者の想像力を刺激する舞台未特定地名を伏せることで、読者は「自分の近くかも」と恐怖を投影できる。心理的臨場感が高い。
複数メディアで楽しめる体験設計無料Web → 書籍 → 映画というステップで、より深い没入と共感が得られる流れが用意されている。
ビジュアルと質感に優れた紙媒体書籍版はレイアウトや資料感がリアルで、再読時の理解と発見が容易。所有欲も刺激される。
期待高まる映像化白石監督や豪華キャストによる実写化は、原作ファンにも新規層にも大きなアピール。QRコード演出などの余波も話題性抜群。
まとめ
本作は「背筋と小沢くんによる調査体験」「時系列を崩した構成」「舞台を隠すことで読者を巻き込む演出」という要素が組み合わさった、非常に稀有なモキュメンタリーホラーです。真相は明かされず、むしろその「解決されないまま」の余韻こそ、恐怖体験を深める作品といえるでしょう。
もしまだ未読であれば、まずはカクヨムで無料掲載版を読んで世界観に浸り、気に入ったら単行本・文庫版を手にとって再読するのが厚みを感じられるベストな楽しみ方です。
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